【食の庭】食道楽
2009. 5. 4

夏ばてや夏風邪予防にピッタリ!

昔から世界各地で栽培されている

栄養満点、旬の空豆

金関 亜紀
 

 豆は「栄養満点」といわれるように、健康志向には欠かせない食材です。
 そんな「豆世界」のなかで、今一番美味しいのが緑色の美しい宝石、旬の空豆なのです。居酒屋でも酒のアテに注文されることが多く、今では枝豆に張り合うくらいの人気ぶり。そんな美味しい豆の秘密を今回、ご紹介します。


空気に触れると味も栄養価も低下するので、さやから出したらすぐに調理。

■世界で栽培され食用として愛されている食材
 美しい翡翠色の豆!といえば空豆。空豆は初夏を感じる野菜のひとつで、ちょうど旬は4月〜5月。八百屋さんなどの店頭に出回る期間が短い野菜のひとつです。
 空豆というと、その色あいもそうですが、サヤが天に向かって伸びるように生えることから空豆は「天豆」、そのサヤの形が蚕の繭にも似ているので、「蚕豆」とも表記されています。


空に向かってサヤが立つことから天豆ともいわれている。

 この空豆。原産地はどこかというと、なんとはるか5000年以上も前のチグリス・ユーフラテス河流域の古代バビロニアで栽培されはじめました。その後、古代エジプトやギリシャ、ローマへと広がったといわれています。
 豆と聞くと、ついつい日本食!というイメージが強いのですが、空豆は外来産の野菜だったわけですね。
 ちょうど今から2000年前に空豆はシルクロードを経て中国に伝来し、日本へは渡来文化と一緒に入国したとか。とはいえ、これには諸説あり、奈良時代とも江戸時代とも、はたまた食用に適する優良種は明治初期などいろいろな時代があげられます。
 そのため、空豆には様々な名前がついており、先にあげた空豆、蚕豆、天豆の他に一寸豆、おたふく豆、ノラマメ、ナツマメとも呼ばれているそうです。


空豆のパスタは彩りもよく、栄養満点

■お歯黒のこと
 そんな空豆には雑学話もつきもの。ひとつお話いたしましょう。
 空豆の、盛りを過ぎてトウのたった実には黒い筋があらわれます。それを「お歯黒」といいます。そう、お歯黒というのは昔、既婚者である女性の風習です。お歯黒という風習は古くから日本各地であり、明治になっても姑くは残っていました。そのお歯黒を「蚕豆の 黒い筋=お歯黒」という名前が一般的に重なるとなると、空豆の日本上陸説は明治初期というよりは江戸時代よりはるか昔に上陸し、民間に普及していたということで決着がつきそうですね。ちなみに、空豆が熟したものがお多福豆です。

■食べ頃はわずか3日間
 世界中で食用として食べられている空豆ですが、皆さん、気づくと空豆が黒くなってたーという失敗はありませんか? 旬の食材は足が早いといわれますが、空豆もそのひとつ。   
 なんと食べ頃は3日間といわれるくらい、おいしい期間が短い。そのため購入後はできるだけ早く調理するのがオススメです。
 栄養は緑の初夏の野菜ということで、タンパク質にカリウム、鉄、ビタミンB1、B2、Cなどが比較的多く、さらにビタミンB群や葉酸もたっぷり。葉酸が多いというのは妊婦さんにとっても非常にありがたい食材です。


やはり空豆はシンプルで食べるのが一番!

 さらに ビタミンB1 は疲労回復やダイエットに効果があり、B2は糖質や脂質をエネルギー代謝にかえてくれる働きをしてくれるのです。食べれば食べるほど健康になりそうな感じがしませんか? そんな空豆はさやごとサッと茹でると香りや甘みが増します。
 イタリアでは、生のそら豆をパルミジャーノレッジャーノとともに食べる料理もあり初夏の人気メニューのひとつでもあります。世界で栽培されている空豆。さすが多国籍料理になじむ食材なのです。


イタリアの料理でも空豆はポピュラーに使われている。パルミジャーノレッジャーノと合わせるとかなりGOOD!

■まるごと食べられる!しょうゆ豆
 ご当地食材の人気は今、大変な大ブーム。そんなブームのなか、ようやく認知されはじめたのが、香川県のしょうゆ豆です。
 しょうゆ豆?というとイメージが湧かない人も多いかもしれませんが、今、話題の郷土料理のひとつなのです。どんな料理かというと乾燥させた空豆を焙烙(ほうろく)に入れ、焦げ目がつくまでよく炒り、その後、砂糖やみりん、しょう油、唐辛子などを合わせたタレに一晩つけたもの。見た目は黒く、初めてみた人は「えぇ!これ食べられるの?」と拒否する人もいるようです。
 でも味は甘く、空豆の甘さがさらにひきたつもので、もちろん栄養たっぷり。空豆は薄皮に食物繊維が豊富なので、そのまま食べるのが一番いい方法。その薄皮もしっかりつけ込んでいるので満点料理なのです。見た目は煮豆風ですが、口に入れると意外と硬い。
 この歯ごたえが香川県外の人には、初めての驚きだといいます。香川でしょうゆ豆が作られるようになった背景には、小豆島などのしょう油文化が関係あるともいわれていますが、このしょうゆ豆は保存食としても重宝されていました。今は甘めの柔らかいしょうゆ豆も増えてきましたが、昔はぴり辛いしょうゆ豆がほとんどで、うどんの箸休めに食べられていたもの。ご飯にもあうし、お酒にもあうということで、呑み助には愛されていた料理でした。


栄養満点の讃岐の郷土料理。甘くて柔らかいものもあるので子供でも食べやすい。

■暑い夏を乗り越える
 さらにしょうゆ豆文化の背景には香川県が全国でも有数の空豆産地でもあることに関係あるでしょう。空豆は新豆とよばれ、塩ゆでなどに使われる未成熟の空豆と爪の部分が黒くなるまで熟れた空豆の二種類に分類されますが、干してしょうゆ豆に使うのは後者の成熟空豆です。
 この成熟空豆は農水省でも統計資料がほとんどない特殊な品目。そんな空豆を郷土料理として昔から食べてきた香川県人。他県より空豆の栄養を人一倍摂取し、元気に暑い夏(香川県は日本のなかでも雨が降る日数が極端に少ない)を乗り越えてきたようです。ちなみに、筆者も香川生まれの香川育ち。小さい頃はしょうゆ豆が食べられず、大人の食べ物! と敬遠していた郷土料理でしたが、いつの間にか美味しい美味しいと進んで食べるようになっていたのはいうまでもありません。


空豆の花は白くて紫模様。どこか着物の柄のようで眺めているだけでもおもしろい。



金関 亜紀
(かねせき・あき)

1974年、香川県生まれ。九州や山口で考古学に携わり、民俗学などに関心をもつ。東京の編集プロダクションや出版社勤務を経て、フリーランスに。現在、東京−香川を往復する生活を続ける。一年に地方や離島に出かける回数は30回以上。土地の食材や酒、祭りなどのフィールドワークを行っている。共著に「日本全国うまい焼酎虎の巻」(エイ文庫)がある。無類の酒好き。雑誌やネットなどでお酒のコラムをはじめ、離島の島ネタなどを執筆中。現在は各地の居酒屋で旬の食材と地酒を求めて放浪中。


 
 


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