【詩の庭】 遠くなった言葉と風景

2008.03.17

Vol.2 柴刈り縄ない
 
長宗我部友親
 
 

 長崎県の沖に浮かぶ五島列島。南の島なのに、魚がめちゃくちゃうまい。その「うまい」を食べる楽しい旅に出かけた。もう二年ほど前のことだが、その帰りにちょっとした意見の違いが長崎空港で起こった。

 
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金平糖は眺めているだけで懐かしさがこみあげるお菓子だ

 五島の旅にご一緒していただいた食通の檀太郎さんとカステラをめぐっての論争である。出島があって、異国との交流が続いていた長崎には風変わりな人が出入りして、また食べ物も変わったものが多い。ちゃんぽんやカルメラ焼き、それに金平糖にカステラ。どれをとっても独特の味があって、おいしい。
 金平糖やカステラは1500年代ぐらいにはもうポルトガルから日本に入ってきて、人々の口に入っていた。しかも、根強い人気があって、金平糖は織田信長らも好んで食べたという。

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 カステラについては「からたちの花」などの童謡を書いている詩人の北原白秋が「桐の花とカステラ」というエッセイを発表している。また、芥川龍之介は長崎を旅した際に、カステラに出会って気に入った。そして、その食べ方について、「パンのように、手に持ってちぎって食べるとよい」と語っていたということが、地元の記録にある。


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 ところで、檀さんとの意見の食い違いのことだが、これはカステラのメーカーについてであった。檀さんはぶつぶつ言いながら長崎空港の売店内を歩き回っている。お土産にカステラを買いたいというのだ。
 「カステラならそこの店で売っているよ」。「だめなんだ。長崎カステラは、松翁軒」といって、また、檀さんは空港の売店の密林の中に潜っていった。ある人にすすめられて、僕はカステラなら「福砂屋が一番うまい」と思い込んでいたものだから、檀さんの行動を不思議そうに眺めていた。
 「あった、あった」といって、カステラのいっぱい詰まった袋をぶら下げて、檀さんは、しばらくして、にこにこしながら現れた。そして、「これが一番味がいいんだから。君も買っていきなさい」という。ということで、僕もその松翁軒のカステラを一本買って、持ち帰り食してみた。なるほど負けました。
 聞くところによると、松翁軒のオーナーは頑固もので、昔ながらの製法を引き継ぎ、また長崎県以外に支店を出すのを嫌って広げていないという。だから長崎物産店でもない限り、この店のカステラにはなかなかお目にかかれないというわけだ。

 
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亀山社中のあった丘の上から眺める長崎の港

 金平糖は赤とか、青とか、黄色とか、一粒一粒がみんなきらびやかに彩られていて楽しい。食べ始めに、ぺろりとひとなめして、その金平糖を指の間に挟んで太陽を覗いてみたり、思いっきりポリポリとかじってみたり。
 いくつ食べても腹いっぱいにはならないし、また食べ始めたらなかなかとまらない。ポケットから,金平糖を一粒ずつ出して、ポリポリといく。
 坂本龍馬がつくった貿易会社の、亀山社中が長崎の丘の上にあったから、坂本龍馬はその丘の上から金平糖を懐に入れて、ポリポリと食べながら、長崎港の船の出入りをみていたとか。金平糖は結構有名人に人気があったらしい。
 金平糖の中心。つまり芯になるのはどうもケシの粒らしい。その周りに熱い蜜をすこしずつ、回転しながらかけてゆき、あの独特の突起を作っていく。すると大体24個の突起ができてくるそうだ。ケシ粒は現在はザラメ砂糖に代わってきているとも聞いた。
 いずれにしても、金平糖はとにかく面白いお菓子に変わりなく、科学者で、随筆家の寺田虎彦もこの金平糖の研究をまじめにやっている。

 
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