【美の庭】現代アート逍遙
 Contemporary Art Impacting on the World
2009.5.25      

シャーマン復権(4)
Shaman Revival


Where Did Universe Come From?
Was it started by God?

耳と音──五次限世界への通路
大島梢が目撃する創造神の不可視の触手
高丘 卓

 だれにでも、深夜、秒針つきの時計を無心に、何気なく見つめていて、突然、秒針が止まったように動かなくなり、はっと思った瞬間にまた動き出すというような、時間の混乱体験があるのではなかろうか。大島梢の絵には、その量子力学的な現象に通じる通路のような場が、しばしば出現する。そのひとつがいま言った、光の幕なのである。またこの幕は、背景に忍びこむ記憶を象徴する巻貝がひそむ水面のようにも描かれている(*シャーマン復権(3)参照──「南千」2004/パネル、紙、製図用インク、水彩/592x420mm)。おそらく、ボスにとっても大島梢にとっても同様の意味をもつこの幕は、わたしたちが現実と感じている四次元(三次元+時間)の日常世界と、幻覚的に体感する五次元世界(と呼んでいいかはともかく)を分かつ、結界の象徴ではないだろうか。

■共通するヴィジョン synchronicity
 目を凝らすと、ボスと大島梢に共通するヴィジョンは(*シャーマン復権(3)参照──「夜の光」2006/木製パネル、紙、アクリル、製図用インク、カラーインク/910x606mm)、ほかにも梟、羽、昆虫、糸紡ぎ、トンネル、東屋、DNA的螺旋、分子の運動や原子核などを思わせる物体など、数多く見出すことができるが、わたしにとって、もっとも衝撃的だったのは、「忍び音」というタイトルの、大島梢の絵に出遭ったときである。

写真
忍び音
2007
木製パネル、紙、カラーインク、製図用インク
180x140mm

 絵は、現実感を喪失した肉体の残像のような感覚世界からしたたり落ちる、虚無の一滴を描いているように見える。またそれは、新たな宇宙の創造にむけた一瞬の出来事のようにも描かれている。水滴がフェルマータ記号が付いたように、じっとしているところを見ると、この水滴には、どうやら宇宙のあらゆる記憶が封じ込められているようでもある。その記憶を聞き分けるのが、耳なのである。幕はこの絵では耳でもある。

■神託のコンバーター converter
 ところでボスの奇怪な三連の祭壇画「快楽の園」のなかの地獄偏にも、同様にこの耳が登場する。ボスの絵は細密精緻かつ壮大であり、キリスト教の寓意的物語(淫欲の罪と罰)を宇宙大に構成するかのように、深淵かつ偉大である。

写真
ヒエロニムス・ボス「快楽の園」部分
1510〜1515頃
油彩
220×389cm

 しかしさらに、この絵のなかの耳だけに、鋭く触覚的に同調してゆくと、わたしは、大島梢が目撃している創造神が張りめぐらす神経系の、無数の針とおぼしき切っ先をもつ原子核(ここでは画像を紹介できないが「雪洞草と甲虫」という絵も同様である)から流れる、シナプスの電気信号音を、はっきり聞きとることができた。片方の画家の耳が、もう片方の画家耳の、発信装置になったり受信装置になったりしているのである。大島梢が聴いた音(曲)は、ボスが聴いた曲とはどうやらちがうようだが、たしかに共振する音なのである(ボスのこの絵にインスピレーションを得て、ヨハネス・ブラームスは交響曲第四番を作曲したというが、この音はまた、第二次世界大戦後の1948年10月、連合軍の爆撃で廃墟と化したベルリン市内のティタニア・パラストで、フルトヴェングラーとベルリンフィルハーモニーによって再現されいる。第1音目の16分音符に、あたかも不可視のフェルマータを加えた、四分音符であるかのように、宇宙誕生の瞬間の虚無の音を、永く、永く響かせているのである)。
 それを聞きとったとき、わたしは音を、ある種の快感(法悦)をともなった、痛みとして体感したことを、報告しておこう。またその曲(音)は、彼ら自身が創造した、正真正銘のオリジナルではなくて、背後の、もっと別の世界から流れ出した訴えかけの音を、いわば再構築したにすぎないことを暗示しているような印象さえうけるのだ。つまり、背後世界→ボス=大島梢→見者という照応構図で、絵や音は見者にとってメディアになっているのである。(続く)

(美術評論家)

協力:ミヅマ・アートギャラリー=三潴末雄
(c) OSHIMA Kozue
Courtesy Mizuma Art Gallery

高丘 卓 (たかおか・たかし)
 和光大学人文学部人間関係学科卒。ヘルメティズム研究家。文芸編集者。「ランティエ叢書」編集長(角川春樹事務所)などを経て、現在平凡社編集局で作家・五木寛之氏の作品を担当している。ヘルメティズムの視点から、2003年には、澁澤龍彦「ホラー・ドラコニア」(平凡社/全5巻)をまとめる。

大島 梢 (おおしま・ こずえ)
1978年、神奈川県生まれ。2002年、東京造形大学造形学部環境計画染専攻卒業。神奈川県在住。
個展・二人展
・2008 「幻日の箱」(大島梢・野田幸江)IID Gallery、東京
・2007 「青」ギャラリーエス、東京
・2005 「自然物、もう一つの姿」ギャラリーエス、東京
グループ展
・2008 「眼差しと好奇心 vol.4」ミヅマ・アクション、東京
       「art_icle賞exhibition」AJC Tokyo、東京
・2007 「黒川紀章展/黒川紀章キーワードライブ」国立新美術館、東京
・2006 「眼差しと好奇心 vol.1」ミヅマ・アクション、東京
・2002 「intersection」Laforet Museum、東京
・2001 「4人展」東京造形大学、東京
受賞歴
・2006 「東京コンペ in CowParade 2006」審査員榎本了一賞受賞

 
 


トップページ会社紹介著作権についてお問い合せ
Copyright (c) Flying Garden Rights Reserved.